「痕跡の林」というタイトルの意味は、人々が集まること林の如し、印鑑の視点から人間社会の形跡を尋ねること。
現代社会のデジタル化により、顔·指紋認証などが普及することで、氏名で自分を証明することは未来では失われると考えられる。また、我々のアイデンティティーが、もはや「0、1」によってデジタル符号で表せることも、日常の中で使われている味気のないデジタルデータから製版された印鑑から見えてくるのではないかと思う。
コンピューターの内部では、あらゆる数字や文字、命令が原理的に二進数として処理される。別の言い方をすると、「もし数字が 0 と 1 しか無かったら」を実現した方法は二進法である。 この作品は、この「0」「1」を「code」として、過去からデジタル化世界へと向かう人間達の姿を描き出す。
印材に氏名、文字、画像など直接的なメッセージを入れず、「0」(丸)を置く。デジタル的には、彫り取られることを0とし、彫り残されたところを1とする。「0」「1」は確かに数字で表記されているが、「0」「1」の対応関係、即ちこのリレーションが二元的である。この印鑑は彫ることで0、つまり丸のイメージを表すが、0(丸)のイメージは二進法における存在としての1である。そこで存在1である0(丸)を人間として表したのが、この作品である。いわば、人間のことを存在1であの印鑑で表す。さらに、摺られたものによって、人間達の痕跡を表現するのが、立ち並ぶ「林」である。
この作品には、この世の中のデジタル化の激流に巻き込まれる、「0、1」つまり空虚と存在という「code」化された人間を表現している。
経歴:
1992年 中国温州に生まれ
2017年 中国美術学院大学院 版画専攻卒業
2019年東京芸術大学大学院 入学
2020年 第2回TKO国際ミニプリント展2020 「石川健次賞」 受賞
2020年 第三回Cantabria国際ミニプリント展、スペイン
2019年 第45回全国大学版画展、町田市立国際版画美術館