デザイン[修士]|Design [Master]

Empath
— 痛みの転移装置|橋本 瞭

ラテックス、ウレタン樹脂、砂利、木材

Empath
- Device for transferring pain | HASHIMOTO Ryo

Latex, Urethane resin, gravel, wood
H70cm × W80cm × D80cm
作品写真:Empath|Photo:Empath
他人の体験を客観的に見る/聞くなどして自身の体験のように感じることがある。 例えば他人が怪我をする光景を見て自分もその痛みを感じたり(共感疼痛)、または自分の身体ではない物質を自身の身体と錯覚することもある。(所有感錯覚[Rubber Hand Illusionなど]) それはつまり他者やモノを媒体として自身の体験に変換しているということになるが、もし媒体となるものが自分と大きく異なるもの、または非人間的なものであり、それと自分の感覚を接続することができれば自身の身体のみでは体験し得ない感覚を得ることができるのではないかという仮説をもとに今回の装置を制作した。 私たちは現代において多くのメディアを通して実際に「そこ(自分の肉体が存在している場所)」には存在していない光景の疑似体験をしている。YouTubeでスポーツ観戦をしたり、スーパーヒーローを操作してニューヨークを飛び回ったり、剣士が鬼と戦っているのを見たり、巨大なポスターで女優が清涼飲料を美味しそうに飲んでいるのを見ているとき、自分の身体は本当に肉体がある場所と同じ場所にあると言えるだろうか? 身体のリアリティとはとても曖昧なものであり、だからこそ映像を見て没入することができたり、人の痛みを自分も感じ取ったりすることができる。 それは逆に捉えれば本来の独立した人間の肉体以上の体験を共感や錯覚によって可能にすることができるのではないだろうか。 中央にある肉の塊のようなボールは人間のトルソ部分を分解した後に新たな形状に再構築し、体験者にそれと触れ合ってもらうことで身体の所有感を転換し身体感覚の拡張を目指す装置である。

橋本瞭 1995年 シンガポール生まれ 東京藝術大学美術学部デザイン科卒業 同大学大学院Design Experience研究室所属