私はガラスの焼成過程で、素材の変質や重力といった自然条件により生まれる偶然性と、溶けたガラスの動きから生じた自然のかたちに関心を持っている。また、更にガラス素材を用いて、身の回りに存在するものに対する印象や感覚、記憶に基づき、現実と記憶の視線が交錯する中で生まれる自身の心像風景を表現している。
「飛行機雲の中はどんな形をしているのか」「触ったらどんな感じなのか」「それらはどこへ消えていったのか」幼い頃の私はよくこのような事を考えていた。9歳の時、私が住んでいた町は大規模な都市排水システムの交換改造が始まり、セメントと鉄製の排水管は白いプラスチック管に変えられた。その長く白いプラスチック管を初めて見た私は、それが空から落ちてきた雲だと思った。2020年に大学校舎内で排水管の工事が始まり、並べられた排水管を眺めていると小学生の頃の記憶と重なった。このことをきっかけに「雲」をモチーフとした作品を制作した。作品は幼い頃の雲に対する記憶を想起させ、元の雲の認識を解体し、新たな視覚的秩序を再構成することで形作られている。