先端芸術表現[学部]|Inter-Media Art [Bachelor]

拭えぬ血、
— エレーヌ・シクスー『偽証の都市、あるいは復讐の女神たちの甦り』の赦しへの思考|北川 光恵

論文、映像

The unpolishable blood,
- in thinking of Pardon with Hélène Cixous's "The Perjured City, or the Awakening of the Furies" | KITAGAWA Mitsue

thesis, video

論文概要

『偽証の都市、あるいは復讐の女神たちの甦り』は1992年から93年にかけてエレーヌ・シクスーが執筆した戯曲である。フランス太陽劇団を率いるアリアーヌ・ムヌーシュキンとの共同制作として書かれ、翌年の1994年に初上演される。

物語は80年代から90年代にかけて起きたフランス感染血液事件を題材に、「偽証」を犯した「都市」を巡って主人公の母親が架空の裁判を起こす。これはHIVに感染した血液製剤を、当時のフランス政府と国立輸血センターが認知していたにも関わらず、血友病患者を中心に提供し、約2000人もの死者を出した事件である。医療と経済が天秤にかけられて政治的判断が下されたこの国家犯罪は、新型コロナウイルスが蔓延し続けている2021年に通づるものがあるでしょう。

国家あるいは集団的組織が「嘘」をつくことや、「誓い」を破ることとは何を意味するのか。そしてそのあとに「赦し」は到来するのか、「和解」は成立し得るのか。そういった問いを私たちに投げかけます。

論文では、この戯曲を「赦し」の観点から考察する。シクスーの旧友であるジャック・デリダが展開した「嘘」や「赦し」の哲学的系譜を参照にしながら、シクスーが示した演劇における「嘘」の関係、そして登場人物らの考察を通じて「赦し」の構造を検討する。

展示

展示では、戯曲から抜粋、再編集した朗読映像を上演している。戯曲が、死者と生者の住まいであるカイロの旧市街地「死者の街」を元にし、〈亡霊〉〈家〉〈墓〉を混在させながら物語を進めていることから、 6人の朗読者はそれぞれの家で朗読、撮影を行った。実際の上演では6時間にも及んだ大作のほんの 一部に過ぎないが、彼女たちの声を現在に甦らせる試みである。

※お住まいで画面を最大にし、内臓スピーカーから鑑賞するのを推奨します。